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2月1日(日)
記念パネルディスカッション「私たちがスポーツを通してつくる人と地域」
(司 会)
畑先生にご講演を頂きましたが、先生方が昨日のセミナーなどを通じて、参加された皆さんに一番伝えたかったことは。
(大宜見)
メンタルトレーニングは「心のトレーニング」。それは、自分をコントロールする力をトレーニングで身に付けていくこと。子供たちやビジネスの世界に大切なトレーニングと考える。普通、子供は一日中笑っていますが、大人になると笑わなくなる。サッカー少年の笑顔が、高校、大学サッカーではほとんどない。
(司 会)
それは何故でしょう。
メンタルトレーニングを当たり前の取り組みに
(大宜見)
その多くは「サッカーをやらされている」から。最近は小学生キッカーに笑顔がないことさえあります。メンタルトレーニングが当たり前の取り組みになる必要がある。
(福 富)
そもそも私は、体育は教育、スポーツは文化という考え。そして、体育は絶対服従の兵隊さんの養成、一方、スポーツは兵隊さんを自分の判断で動かすことのできる将校を育てることが目的であったと言われている。
(司 会)
つまり、スポーツは自らの判断の世界だと。私たちもクラブのミッションをどこに求めるか、いろいろ悩んできましたが。
クラブは地域の皆さんの居場所に
(福 富)
クラブの会員は、誰かにやらされてやる訳ではなく、指示を待つでもなく、進んでスポーツをしたいという意志を大切にしている人たち。このような個人の意志や活動がチームや団体としての活動に広がり、さらに広がりを求めるとき、スポーツクラブが、場所や指導者の確保などでチームの活動をサポートする。やがてたくさんの人が集まって交流の場になり、地域の皆さんの居場所になっていくことが大切と考える。
(橋 本)
私は京都の小学校の教員。実は私がボトムアップ学級経営論を初めて発信したのがこの富山。
(司 会)
小学校の学級経営とボトムアップ理論の接点はどこに。
自立する力を束ねて課題を乗り越える力
(橋 本)
「サッカーは人生の縮図」は、イビチャ・オシムの名言。喜怒哀楽、組織の中の個人、個人で構成される組織、自立する力を束ねて課題を乗り越える力。これらから考えるとスポーツで人を育てることは、現代社会で生きていく子供達を育てることにつながると考えた。
(黒 田)
私は日本の最年長?の現役チアリーダーであり、高校教師として生徒を指導をしながら、プロサッカーや野球チームのチアリーダーチームも数多く育てた。
病気などを経験しながら指導にあたってきたが、私の人生に比べたらほとんどの人は「自分は幸せ」と感じるだろう(笑)と思っている。
県立高校の先生の多くが5年周期で異動する。手塩にかけた生徒を全日本の大会に出場させたころに「さよなら」となるのが実情。
(司 会)
畑先生、昨日のセミナー、あるいはスポーツクラブにどのような印象を持たれましたか。
発信したいのは「自発的な考えや行動」
( 畑 )
4名の先生方とセミナーを開催したが、一つ一つのセミナーは点ですが、実は線で繋がれてると思っている。発信したいのはあくまでも「自発的な考えや行動」。このキーワードがあってこそ、それぞれのセミナーが繋がっていく。
ふちゅうスポーツクラブにはたくさんの教室がある。種目は違うけど、クラブとしてのミッションを会員がちゃんと受け止めているという印象を受けた。何故なら、先程、見せて頂いた創立以来のDVDを見ても、みんな笑顔で力を合わせて活動している印象を受けます。だからこそ、「笑顔を造り出す」というミッションがぶれないようにしていくことが大切。
(宮 脇)
先生方のお話にたくさんのヒントがありましたが、小、中、高校生のそれぞれが持っているスポーツニーズには、どのようなものがあるのでしょうか。それらの点を繋げて線として、クラブの活動に繋げていきたい。
(橋 本)
幼稚園の年代で獲得すべき運動能力がないまま小学校に上がってきて、体育の授業は週に僅か90分。運動はそれしかしない子供が多く外遊びをしていない現状。いろんなことをしながら体を動かすという経験がない。日本のスポーツに対する課題と認識している。
(司 会)
厳しい現状がですね。
(橋 本)
小学校では、スポーツができる子供とできない子供、運動能力の2極化が顕著。スポーツの世界へのアプローチは、自由な遊びという土台があって、トラブルがあったり、競争心が高まると、自分たちでルールを作り、やがて、さらに強い相手を求めてスポーツの世界に入り込むという自然な流れがあったはず。
(司 会)
中学生くらいのところは、また、独特のニーズや難しさがあると思いますが。
(大宜見)
英国で行われた国際学会で出会った育成年代のメンタルトレーナー曰く、サッカー競技においては「U9は保護者に、U12は子供と保護者が一緒に、そして、U15になってはじめて子供だけで指導を受けさせている。」とのこと。
私は、日本においてはU15までは、親子で指導を受けても良いと思っているが、畑先生の講演にあったように、これ以上の年齢になると、自分たち自身でちゃんと、「やりたいこと」や「やらなくてはならないこと」を話し合えるようになる。
人間力を育てる一貫性をもった指導が大切
(黒 田)
高校生について、私は、人間力を育てる一貫性をもった部活動やその指導が大切と考えてる。高校の部活動が直面しているのは、積極的な顧問や指導者の絶対的な不足。そういう意味で、向上心を持っている子供達のニーズに応えていないとも言えます。
(福 富)
子供の頃からスポーツをしていた学生が、高校、大学生になると、かなりの率でバーンアウトしている。部活動案内のチラシを配る先輩に対する答えは異口同音。「もう、本気でやるようなスポーツはやらなくていい」と。仮に体育会系の部活動に入っても、なかなか本気スイッチが入らない。バイトなど、自由や楽しさがあるなかで敢えて自分を厳しい環境におくことを避けているように思えます。
(司 会)
スポーツが嫌いになった訳ではないのですね。
(福 富)
大学のサークル活動に参加する学生はいて、それがやがて「勝ちたい組」と「楽しければ良い組」に分かれていきます。そこが、地域のスポーツクラブが抱える問題と重なるのではないか。つまり、参加するしないは自由。でも、目的は様々というように。
(司 会)
その通りですが、先生はその点をどのように整理して考えておられますか。
人としての幸せ、幸福感に物差しをあてる
(福 富)
私は、ベクトル合わせも大切ではありますが、競技を超えた”人としての幸せ”とか、”幸福感”を踏まえた「人の成長」に物差しをあてることなのかなと考えている。
(司 会)
なるほど。さて、先程から「やる気スイッチ」という言葉や、黒田先生からは「けしかけて」という言葉がありましたが、トップダウンではなく、子供達をやる気にさせる秘訣は何だったのでしょうか。
(黒 田)
どの子にも心に訴えかけること。生徒たちは「先生は私のことが一番好き。」「自分の善し悪しをすべて知った上でチャンスをくれた。だから、自分は思い切り演じれば、結果は自ずとついてくる」と考えていると思っている。
(司 会)
先生のことをこの上もなく信頼しているのですね。
(黒 田)
患者の心を穏やかにするのは、どのような薬や治療より、ドクターや看護士が「大丈夫ですよ」と体に手を触れてくれることだと医者である私の娘から聞きた。ですから、先程、すばらしい演技を見せてくれたチアの子供達にも、会場のみんなが元気や勇気をもらったよ。人を幸せにできる人がこの世の中で一番偉いんだよ」と、一人一人を抱きしめて気持ちを伝えた。少し驚いていましたが、直に私の気持ちを分かってくれました。真心を込めてダイレクトに触れあうことは、子供たちの向上心にとって大切なことと考えます。
(司 会)
福富先生や宮脇理事長のお話を聞いて、畑先生のご講演の中にあった、「あの子供達は楽しんでいるけれども本気」という言葉。逆に福富先生が「大学生はなかなか本気のスポーツに取り組まない」そして、「大学生の生活の基本はフリー」というお話を考え合わせてみると、「主体的であれば、本気で、しかも楽しめるということになるのか。」だとすれば、どうやってそう思わせるかが難しいのですが如何でしょうか。
できないことができるための素敵なヒント
( 畑 )
上手に出来る出来ないではなくて、そのものを好きにさせることだと。そのスポーツが好きという事実は何者にも負けないし、普通、できないことは悪いこととされていますが、私は、「できないことができるための素敵なヒントを持っている」と考えることにしている。
ですから、できないことはすごく良いこと。
(司 会)
我々はできないことを、ついつい責めてしまいがちですね。
( 畑 )
上手くできないことも含めて壁を乗り越えていくことによって、その競技が好きになること。それには必要な動機付けがあったり、係わり方、言葉の才能を持っているファシリテーター的な能力をもった指導者を増やして行きながら、教室に入っている人たちの気持ちを引き出してあげることが大切。好きになるための言葉掛けとか、様々な先生方からヒントをもらいながらチャレンジしていくことです。私もまさに勉強中です。
(司 会)
スポーツクラブにとって大切なチャレンジですね。
( 畑 )
特に総合型スポーツクラブで言うと、好きだからその種目をやっているわけであって、より良い環境作りであったり、巡り会いの場を増やして行くことで、もっと活性化してくるのではないかと思う。ここでもキーワードは、自主性と主体性。それを引き出すのがクラブの大切な仕事ではないか。
(宮 脇)
クラブは、幼い子には多様な動きが出来る場であること、また、世話をしてくれる人、指導者を地域から人材発掘して行くことも大切。親子で参加したり、近所で参加する工夫をすることで、たくさんの人たちがスポーツに参加する機会を作っていくことで活動が広がっていくのかなと思いました。
(司 会)
クラブは、会員の「自由」と「満足」の両方を叶えなくてはいけないことになりますね。
満足感につながるクラブの多様性
(宮 脇)
自由であるからこそ、加入してからの満足感につながる多様性を具備することがクラブとして重要と考えます。楽しみを追求すること。同じ種目であっても、上手くなったときにさらに、次の欲求が出てきて、もっと上手くなりたい、あるいは勝利を目指すということもあるでしょう。そういうニーズに多様に対応していくことが、今後のクラブとしてのありようではないかなと。
(司 会)
某市の部活動の朝練習を全面禁止する市条例が発っせられた事例があったと聞きましたが、規制した側は、部活動が過度になり健康を害さないようにという、一般的には思いやりの条例なのかもしれないが、私は少し違うと思います。
世の中の6割以上はトップダウンが良いと考えていますし、これからボトムアップ理論を実践してみようと思っている人が3割あっても後の人たちは聞いたこともないはず。つまり、いつ、どこで、どのように練習をするかを決めるのは誰なのかということです。
さて先程、長年、クラブ会員として素敵なスポーツライフを実践されている皆様にアワードが贈られましたが、実はご質問したいことがあります。皆様は、これまで私たちの健康保持は県や市が無料でやってくれていたのに、クラブには何故、お金を払うのかお考えになりませんでしたか。皆様方はその概念を超えて参加しておられる訳ですがそれは何故か。どのようなメリットをお感じになったのでしょうか。
(小 沢)
お金のことを考える人もいると思いますが、一番大切なのはスポーツに親しむ機会と場所、そして自分に合ったスポーツを提案してもらえる環境にある。そのような環境がないと、スポーツをしたいという思いがあっても一歩踏み出すことが出来ない。教室、事業を紹介して頂けたからこそ参加出来たし、指導もしてもらえた。お金には換えられない。
(水 家)
様々な活動をしており忙しい毎日。クラブで培った元気な体があればこそと思っています。
(司 会)
ありがとうございました。すべての答えがそこにあるような気が致します。
それでは最後に、先生方から、今後のクラブの方向性について一言あればお願い致します。
(橋 本)
子供達がおかれた状況から、スポーツクラブと連携していろいろなスポーツを体験させてあげることは極めて重要な取り組みだと思います。スポーツクラブは、自主・自立がここにあり、スポーツが人を育て、組織を育て地域を育てる。この連鎖はボトムアップ理論そのものだと思います。
答えは住民の皆さんが持っている
(福 富)
海、山、雪などの豊かな自然をもつ富山ならではのスポークラブのあり方。その答えは、ご老人から幼児まで、きっと住民の皆さんが持っていると思う。
(司 会)
会場の皆様からご質問やご意見はありませんでしょうか。
(参加者)
スポーツに励む子供がずいぶん減った。自分は近所の子供たちと遊び、子供達の中で自主的にルールを作っていた。現在は、近所の子供同士で遊ぶ機会が少ないのが一番の問題。子供たちが自ら作ったルールが小学生、中学生になったときに活きてくるのではないか。家の中に閉じこもっている状況等について、どのように考えていけば良いのか。
環境作りを地域と学校で
(橋 本)
全く同感。田んぼで遊ぶことが当たり前で、スポーツの原点のようなものに触れ、サッカーへの気持ちが育ってきた。まさにボトムアップ、子供達が自らルールを作りベクトルを合わせてやっていた。今は、移動は車、家にはエアコンがありゲーム機がある。子供達は遊び方を知らないし、川に近づくな、田んぼは許可を受けてと指導され、公園は狭くてボール遊びもできない。だからゲームという流れになっている。子供が間違っているのではない。
私は、環境作りを地域と学校で手をとりあって進めている。場所・時間・仲間を提供していくことが大切。
(参加者)
黒田先生は、子供たちにお掛けになると言われた「大丈夫」という言葉には、すべて「人」という字が入っている。今日の先生のお話しに感動したので。帰ってから孫たちに伝えたい。
(参加者)
サッカーの指導をしており、子供達に夢を持ってもらいたいと思っている。是非、先生方の夢をお聞きしたい。
(黒 田)
ピンチヒッターで演技したら、先生と一緒に演技できたと子供達が喜んでくれた。若いころは決して上手ではなかったが、その分、人よりも長く現役でいようと思っている。
(橋 本)
中学校の保健体育の先生になってボトムアップ理論を実践・提唱したいと思っている。
(吉 富)
スポーツで健康・文化・平和を実現すること。そして、ワールドカップ優勝に貢献したい。
(大宜見)
妻のワールドカップ優勝は夢の一つですが、「集中、やる気、気合い、根性」など、多くの指導者から発せられる、選手にとって応えようのない指導ではなく、それらが自ずとできる環境をメンタルトレーニングの世界から作りたい。
( 畑 )
点と点を線に繋ぎながら、ボトムアップ理論を広げ、みんなで考えていけるものを作りたい。これも挑戦。色々なところに足を運んで、新たな人に会って、今日のように仲間と一緒に理論と実践を広げたい。最終的にはトップダウンが多いスポーツの世界を、指導論としてはボトムアップが追い越していくこと。自分の時代には作れないかもしれないが、仲間や教え子達が先生になったり、企業・業界の中で発信してくれると思っている。体罰と恫喝のないスポーツの世界を作りたいし、すべてがチャレンジだ。
(司 会)
先生方、参加者の皆様、ありがとうございました。
スポーツクラブを立ち上げた時のように、新しいことを始めようとすると、逆風が吹くことがありますが、志を持った人たちが、互いに語り合い、助け合って、使命を追及していこうではありませんか。本日はありがとうございました。
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